イギリスの保安処分制度の実態

「心神喪失者等医療観察法案」が今国会で審議されています。この 法案について賛成の立場から発言している山上皓東京医科歯科大学 教授は、欧米の保安処分制度を高く評価し、その宣伝に努めていま す。しかしながら、たとえばイギリスの保安病棟の実態あるいはそ のシステムが取り返しのつかないほどの人権侵害を引き起こしてい ることを、ちょうど今イギリスのインデペンデント紙がキャンペー ンを行っています。 不定期拘禁の実態 インデペンデント紙「たとえ回復しても出口のない高度保安病棟」 (6月16日付)では3つの高度保安処分病院(ブロードモアなど)には、 すでにそこにいる必要がないと判断されている患者が、行き場がな いため400人待機リストに載せられたまま拘禁され続けていることを 暴露しています。権利擁護のための審査機関もその審査そのものが 間に合わずに迅速な審査すら行われていない実態が暴露されていま す。  またひとつのケーススタディとしてすでに22年間ブロードモアに 拘禁されている女性作家の例も挙げられています(インデペンデン ト紙「高度保安病棟 ジャネットは22年間入れられている。狂って いると認めない限り彼女は釈放されない」6月16日付)。彼女は殺 人事件をおこしたわけでもなく、菜切り包丁で精神科医のおしりを 刺したというだけで22年間拘禁されています。  彼女の行為で一般の刑事手続きで実刑判決を受けたとしてもこれ ほど長期間の終身刑並の拘禁はされません。彼女は自分が危険な精 神障害者であると認めず内務省の管理下で生活することを拒否して いるため釈放されないのです。そもそも今日の基準であれば彼女は 高度保安病棟に送られることすらなかっただろうと専門家は語って います。ジャネットと交流している方の意見によれば、これは単に ひとつの例でしかありません。今回の法案が成立すれば、こうした 無期限の拘禁が生じていくことは明白です。  いったん特別な施設を作ると、一般の精神病院が許容力を失いす ぐさまその施設は満杯となって、どんどん増設せざるをえなくなり ます。たとえ今回の法案が成立しても精神障害者の事件はおき続け ますし、そうしたときまたもや対象者の拡大の声があがることは確 かです。イギリスでは一人当たり年間2600万円以上もの費用を使い、 日本より少なくとも法的にはましな人権救済システムを用意されて いても、上記のような実態です。今回の法案が「社会復帰」を目的 と称していても、現実には受け入れ場がなくなり、特別な施設に拘 禁され続ける実態を生み出すこともこの記事で明らかになっていま す。 対象者の拡大 恐怖に支配されていく精神医療  さらに最近イギリス政府が発表した精神保健法「改正」の草案に よると、なんら犯罪にあたる行為をしていない患者でも高度保安病 院に収容できるようになり、また治療可能性のない人格障害者であ っても収容できるようできることになります(資料「精神病者は法 律を破る前に収容される」参照)。 今回の特別立法や「処遇困難者病棟」あるいは何らかの特別病棟の 新設によって、「精神病院の開放化がすすむ」あるいは「地域精神 医療が促進する」「精神医療が本来の医療に専念できる」などとい う、宣伝あるいは意図的誤解が日精協を中心になされておりますが、 このインデペンデントの記事(掲載資料末「恐怖製作所」参照)あ るいはオックスフォードの教科書によれば、むしろ保安処分の存在 するがゆえに、精神科医はじめソーシャルワーカなどなどすべての サービス提供者側に対して、「犯罪の危険の予測とその防止」の任 務が押し付けられ、訴えられるというおびえゆえに、強制力の行使 が行われるという実態が明らかになっています。 インデペンデント紙でもオックスフォード教科書でも「犯罪の予測 と防止」というできないことを要求される精神科医の困惑というか 苦悩が語られていますが、今回の特別立法を許せば、こうしたこと は日本でもおきてきます。もちろん今での措置解除に関しての「お びえ」は精神科医にあるでしょうが、それをどこかに判断してもら う体制を求めることでかえって、精神医療全体が社会防衛的治安の 道具にされてしまうと私は考えます。 今回の特別立法を許せば、保安処分制度は一人歩きし、その対象者 は拡大され、どうしようもない人権侵害状況を生み出すことは、イ ギリスの状況を見れば明らかです。 新規掲載 ほかの方の訳してくださった。ガーディアン紙、インデペンデント紙記事 翻訳はこちらからダウンロードMsWord.doc MsWord.txtはこちら 記事は以下です。 インデペンデント High-Security Hospitals:
No way out, even if they have recovered
High Security Hospitals:
Janet's been in for 22 years.If she admits she's mad, they'll let her out
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インデペンデント紙記事仮訳 「回復しても出口のない高度保安病棟」仮訳 Ms word.doc Ms word.txt 「最重度保安病院 ジャネットは22年間入れられている」仮訳 MS Word. doc Ms word.txt 「精神病者は法律を破る前に収容される」仮訳 MS Word. doc Ms word.txt 「恐怖製作所」仮訳 Ms Word doc. Ms word.txt 拘禁されて病院の中で過ごす暮らしがどんなものか分かりますか? Ms Word doc. Ms word.txt

ガーディアン紙関連記事 精神保健法改定関連記事 山上皓の以下の研究報告書は公表されています。 厚生労働省資料室か国会図書館で読めます。 平成13年度「精神障害者の自傷他害行為への対応とその防止に関する医療体制 等の整備に関する研究」 主任研究者 山上 皓 分担研究社 筧 淳夫 山上皓 加藤久雄 明確に「専門的司法精神医療システム構築」という言葉で保安処分制度新設を主 張し、欧米のシステムの内容とその利点を宣伝していく必要を述べています。 分担研究の内容は「自傷他害行為を示す精神障害者の治療環境整備のあり方につ いての研究 」(主に施設面 国内の国立肥前と松沢およびイギリスの施設視 察、施設計画のための指針モデルプラン)、「自傷他害行為を示す精神障害者に 対する治療活動の実態とその改善策についての研究」(触法精神障害者処遇実務 研究会2回群馬と福岡イギリスの視察。ちなみにこの分担研究には町野朔教授も 入っています。川本哲郎教授は報告者として参加)。「精神障害者の治療環境の 改善に必要な法整備についての研究」(内外の研究者を呼び6回の医事刑法研究 会を開催、外国からはイギリスのガン教授、ドイツのラトケ教授、ネドピル教授 いずれも司法精神科医)。 報告書には触法精神障害者処遇実務研究会2回のテープ反訳と3人のドイツイギ リスからの教授の講演と質問の反訳も添えられています。